シャーロック・ホームズ 備忘録

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多分こうであろうという事件の発生順に並べている。
日付は正確でないものも多く、信憑性の高い資料が出てきたらその都度変更予定。

白銀号事件

新潮文庫/シャーロック・ホームズの思い出/延原謙訳
 木曜日(笑)。それしかわからん。
 ホームズはある事件の調査の依頼を受けたが、ほおっておいてもすぐに解決するだろうと1日待ったのだが、事件解決の報は届かず、ワトスンとダートムアへ向かうことに。
名馬と名高い白銀号がレースを前にして行方不明になり、同時に調教師が殺されたのだ。
ホームズは荒れ地ばかりのキングズ・パイランドなら白銀号はすぐに見つかるだろうと思っていたのだが、まだ見つかっていなかったのだ・・・。

  ホームズの推理は見事だが、この程度の推理ならレストレードでも出来そうな気がする。
悪そうな白銀号のオーナーが、別に普通の人だったのが意外と言えば意外(笑)。
 とりあえず「最後の事件」より前の話らしいので、1890年やろか?

最後の事件

新潮文庫/シャーロック・ホームズの思い出/延原謙訳
 1891年4月24日夜。突然ホームズがワトスンの家にやってくる。
ホームズは1890年の冬から今年の早春まで、フランス政府の依頼を受けて現地で活動しており、ワトスンはまだフランスにいるだろうと思っていたので驚く。
実はホームズはフランスでの仕事はとっくに終えており、すでに3ヶ月以上も悪の天才モリアーティを相手に全力で戦っていたのだった。
なんとか最後の仕上げをほどこし、3日後の月曜日にはモリアーティをはじめとした組織の主なメンバーを一網打尽に出来る目処はついた。
あとはこの3日間モリアーティの魔の手を逃れれば勝利となるのだ。
ホームズはこの機会にワトスンを旅行に誘い、翌日モリアーティの目を盗んでスイスへ向かった。
しかしモリアーティは獲物を見落とすことはなく、とうとうライヘンバッハの滝でホームズに追いつくのだった・・・。

 追いつめられ姿を現したモリアーティとホームズの会話がしびれる。
またさりげなく登場するマイクロフトもいかす。
もはや推理がどうのという話ではなく、ホームズとの最後の旅行(と思っていた)をとつとつと語るという展開。
ワトスンがこれを書いたのは、1893年のこと。
ストランド誌に発表されたのが1893年12月なので、ほとんど同時期と考えていいだろう。
ドイルはこれで完全にホームズを殺したつもりだったようだが、あの終わり方は僅かに再び続きを書く可能性も考慮していたのは確かだと思う。
 この後3年間というもの、ホームズは公の場からは姿を消す。

空家の冒険

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1894年4月。
 3月30日の夜に、ロナルド・アデア卿が射殺された。
ホームズのいなくなった今となってはそんな事件と関わりの無いはずのワトスンだったが、難解な事件が起こるとホームズのことを思い出し、自分なりに推理してみるのだった。
 卿は室内でピストルで撃たれていた。
卿はカードの収支計算のようなことをしていたらしいのだが、その日は訪問者は無く、部屋に卿以外の誰かが入った形跡もなかった。
窓の外から撃った可能性はあるが、人通りの多い通りなのに銃声を誰も聞いていなかった。
わざわざ現場まで行って確かめてみたワトスンだが、手がかりはなにも得られず、読書好きの老人にぶつかってしまっただけだった。
 医院に戻って考えているところに、さっきの老人がやってきたので驚くワトスン。
老人が本棚にワトスンの注意を向けたので一瞬振り返って顔を戻すと、そこにホームズがいた。
驚きのあまり気を失うワトスン。
 実はホームズはライヘンバッハの滝には落ちておらず、その機会を利用してモリアーティの残党を追いつめるために身を隠して世界中を旅していたのだった。
そして残党の中でも最も危険な殺人者であるモーラン大佐がロンドンに入ったので、彼も追ってきたのだ。
 モーラン大佐は殺されたアデア卿のカード仲間だった。
モリアーティを追いつめていたときにホームズが恐れていた空気銃。あれこそ大佐が使用している拳銃弾を発射できる強力な暗殺銃だったのだ。
ホームズはワトスンとともに懐かしのベーカー街の部屋の、道路を挟んだ反対側の建物に潜み、モーラン大佐を待った。
大佐もホームズがロンドンに戻っているのを知っており、当然狙撃しに来るという予測からだった。
ホームズの部屋には精巧な蝋人形が置かれ、外から見ればホームズ自身としか分からなかった。
やがて足音が聞こえ、ホームズは予想外のことがおこったことを知る・・・。

 「最後の事件」から10年後に書かれたホームズの復活は、「最後の事件」もそうだったようにキャラクターとストーリー重視の、いつもとは違うスタイルの作品になっている。
まあ展開を考えれば当たり前だが。
 ドイルはホームズの復活に頭をしぼったのだろう。「最後の事件」でセリフだけ出てきた空気銃をうまく使い、1つの作品としても実によくできた内容になっている。
 またこの短編集「帰還」はドイルのやる気も復活して、トリックのストックもいくらかあったと見え、 名作が目白押しなのも嬉しいところである。
 

ノーウッドの建築士

新潮文庫/シャーロック・ホームズの叡智/延原謙訳
 1894年6〜8月?
 ワトソンはホームズの薦めで医院を売り払い、再びベーカー街221Bに同居していた。
ホームズはと言うと、モリアーティというワイバルを失ってぼんやりしていた。
そこに飛び込んできたのはジョン・ヘクター・マクファーレンという事務弁護士で、なんと彼は殺人の容疑を着せられて追われているのだと言う。
最初はあまりの彼の興奮ぶりに迷惑に思っていたのだろう。彼が警察に捕まるというと「これはありが・・・いや、面白い!」というホームズ(笑)。
聞けば彼はいきなり遺産相続人になったかと思うと、その日の内に遺言状を書いた人物が殺されて真っ黒焦げの死体で見つかったと言うのだ。
状況証拠もそろっており、普通に考えれば彼が犯人なのは間違いないところだが、ホームズの勘はそうじゃ無いと言っていた。
しかしいくら調べても彼が犯人だと物語る証拠ばかりが出てきて、一時的には降参しかけるホームズだが、レストレードが持ってきた決定的な証拠を見たときに新たな局面が開ける。

 いくら黒こげでも、ウサギと人間の死体の区別はつくと思う・・・。

金縁の鼻眼鏡

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1894年11月末。
 雨の夜、突然探偵スタンリー・ホプキンズが訪ねてきて、ホームズに協力を要請した。
ケント州チャタム市の奥にある田舎町で、引きこもって執筆活動をしている老教授の秘書が殺されたのだ。
秘書は現場にあったペーパーナイフで刺し殺されており、犯人の遺留品らしい金縁の鼻眼鏡が残されていた。
 現場を調査するホームズ。
鼻眼鏡を観察し、その持ち主が強度の近眼の女性であるその他の情報を入手した。
そして出入り口が一つしかなく、足跡を残さないためには慎重に草の上を踏まなければならないことを知り・・・。

 推理の過程が整然と描かれていて、ミステリーとして実に楽しめる内容になっている。
名作と呼ばれているだけのことはある。
 1904年7月ストランド誌。

ウィステリア荘

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 日時は・・・本文では1892年の3月の終わりとなっている。
しかし困ったことに、この時はホームズはライヘンバッハの滝に落ちて死んだと思われているのである(汗)。
ドイルにはもう少し過去の著作に注意を払ってほしいところである。
1891年だとするとホームズはフランスに行っているはずだし、「空き家の冒険」は4月のことなので1892年もあり得ない。
と言うわけで、とりあえず1895年の3月の終わりではないかと思う。
「最後の事件」より前とも考えられるが。

 スコット・エクルズという依頼人がやって来て、ホームズに相談しようとするが、そこにグレグスンがやって来て、彼を殺人容疑で逮捕しようとする。
昨夜のエクルズの不思議な体験を聞いてみることに。
彼は最近親しくなったガルシアという男のところに泊まりに行ったのだが、翌朝起きてみるとガルシアどころか召使いも誰も彼もいなくなっていたのだ。
最後にガルシアを見たのは、夜中に寝室を覗き込み、「もう1時ですよ。」と言った時だった。
そのガルシアが今日オックスショットの原で頭部を殴られて死んでいたのだ。
 ホームズは現地のベインズ警部と争うように調査を進めた。
エクルズはアリバイ工作に利用され、しかしガルシアは仕事に失敗してしまったのだと判断。更に残された暗号に7番目の扉と書かれていたことから、近くの大きな屋敷が関係あると推理する・・・。

 ホームズ全作品の中で、最も優秀な警部がベインズである。
今作ではホームズと同じ推理にたどり着いている。
あさっての方向を調べていると思っていたベインズが実は間違っていなかったのが一番のどんでん返しだった(笑)。
 1908年9〜10月 ストランド。

美しき自転車乗り

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1895年4月23日土曜日。
  美しい女性の依頼者がやってくるが、あいにくホームズは他の依頼(煙草長者ジョン・ヴィンセント・ハードンを中心とする奇怪な脅迫事件)に忙しく、代わりにワトスンが現場を調査することに。
 依頼者ヴァイオレット・スミス嬢は、南アフリカから帰ってきた二人の紳士に紹介され、サリ州のはずれのファーナムの近くでピアノを教えていた。
彼女は週に一度自転車で駅に向かい、母親に会いに帰っていたが、同じく自転車に乗っている気味の悪い尾行者の存在に気付いた。
尾行者は毎週必ず現れ、彼女が正体を突き止めようとすると逃げてしまうのだ。
 ワトスンが茂みに潜んで様子を見ていると、尾行者は道の脇の建物に入っていったのが確認できた。
その建物を借りているのはウィリアムソンという男だと調べ、意気揚々と帰ってきたワトスンだが、ホームズにその調査は方法もまずく、結果もほとんど無意味なものだと言われてしまう。
 その後の調査で、彼女に危険が迫っているのが判明し・・・。

 今も昔ももてる女性はストーカーに悩まされるというお話。
この作品の場合は彼女に入るはずの遺産も影響しているのだが。
 気になるのは最初にカラザース氏が年配だと書かれていて、それが後半のオチと噛み合わないところ。
ミステリーとしてそれは違うのではないかと・・・。
しかし雰囲気や描写される風景などが興味深く、結構好きな作品でもある。

赤い輪

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 日時不明。
 部屋に閉じこもったまま、まったく姿を見せない下宿人が不気味だというおかみの話は、最初は興味の無かったホームズを次第に引き込んでいった。
用事は活字体で書いたメモで伝え、食事はドアの前に置いておくことになっている。
掃除などの為に召使いを入れることもなく、完全に姿が見えないのだ。
入居を頼んできたのは髭を生やした30歳くらいの男性だったとあるが、彼は部屋を借りた当日に外出し、その日の深夜に帰ってきたらしい。
 ホームズは下宿人が入れ替わっているのではないかと推理し、下宿人が毎日取り寄せているデイリー・ガゼット誌を調べてみた。
するとどうやら暗号めいたものが載っていた。
 再びおかみがやって来て、彼女の主人が馬車に連れ去られ、その後なにもされずに解放されたのを知らせてきた。
明らかに下宿人と間違われたのだ。
 ホームズは下宿人の部屋の廊下を挟んだ反対側の部屋の中から、下宿人が食事をとるところを見張り、部屋に住んでいるのが実は女性なのを目撃した。
また彼女が近くの高い塔のような建物との間で、光を使った連絡をとっているのに気づき・・・。

 謎の下宿人の件は面白いのだが、後半の捕り物はもう一つ。なんか雪崩式に終わってしまう。
 1911年3〜4月 ストランド。

三人の学生

新潮文庫/シャーロック・ホームズの叡智/延原謙訳
 1895年
 研究のためある大学町に部屋を借りて住んでいた時に、近くの有名大学の講師兼指導教師のヒルトン・ソームズが訪ねてくる。
最初は研究の邪魔を嫌がっていたホームズだが、事件の内容を聞くにしたがって興味を持ちはじめる。
 ソームズは明日行われる奨学金試験のギリシャ語の問題を管理していたが、少し部屋を空けている間に何者かにそれを見られてしまう。
公にしてスキャンダルになるのも困るし、このまま試験を行うのも論外で、どうしてよいか分からずホームズのところに泣きついてきたのだ。
 ホームズは現場を調査し、更にソームズと同じ建物に住んでいる学生にも会って犯人をつきとめる。

 大学という舞台の雰囲気がいい。
いちいち鉛筆の芯を折っては鉛筆とナイフを借りるのが滑稽で面白い。

黒ピーター

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1895年7月第1週。
 この1週間ホームズはベージル船長という名の人物に変装してなにかを調べているようだった。
その日部屋に帰ってきたホームズは大きな銛を肩に担いでいたのでワトスンは大いに驚く。
聞けばさっきまで、肉屋で天井のかぎに吊した死んだ豚を夢中になって突きさしていたのだと言う。
 そこにやってきたのは30歳くらいの敏捷そうなスタンリー・ホプキンス警部だった。
彼はホームズに今抱えている事件の調査の協力を頼みに来たのだが、すでにホームズはその事件に興味を示して調査を始めていた。
黒ピーターと言われて恐れられていた元船長が自宅の離れで銛で一突きにされて死んでいた事件である。
ホームズは現場に落ちていた黒ピーターの頭文字がついた煙草入れに興味を示すが、ホプキンスは単なる被害者の持ち物だと認識していた。
 その後現場に忍び込もうとした者がいると判明し、その調査も進められるが、ホームズは異なる路線から犯人を割り出していた。

 犯人が頭文字と銛の名手だというだけで割り出されてしまうのが変でもあるが、面白くもある。
この話は現場の様子や事件の経緯が実によくできていて楽しい。

ブルース・パティントン設計書

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 1895年11月第3週の濃い霧が4日も続いた木曜日。
 なんとマイクロフトがベーカー街にやって来た。
これは余程のことだと話を聞いてみれば、海軍の軍事機密であるブルース・パティントン式潜水艦の設計書が、線路の脇で見つかった事務員カドガン・ウェストの死体から出てきたのだ。
しかも最も重要な3枚は紛失していた。
設計書はウーリッチの兵器工場に保管されていたのを盗まれたらしい。
 カドガン・ウェストは月曜日の夜、婚約者とウーリッチ劇場に向かう途中、突然姿を消したきりだった。
また彼は切符を持っていなかったことがホームズの注意をひいた。
 近隣に潜伏しているスパイの情報を元に線路沿いの家を見つけたホームズは、ウェストの死体がなぜそこにあったのかを突き止め・・・。

 実に有名な話で、事件も国家の存亡に関わることだし、トリックも面白い。
代表作の一つだろう。
化夢宇留仁的にはちっちゃい事件が好きなのだが(笑)。
 1908年12月 ストランド。

フランシス・カーファクス姫の失踪

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 日時不明。
 突然ホームズに「どうしてまたトルコなんかにしたんだ?」と聞かれて驚くワトスン。
ブーツのことかと思ってイギリス製だと答えてやると、そうではなくてトルコ風呂のことだった。
確かにワトスンはトルコ風呂に入ってきていた。
ホームズは気分転換したいのならローザンヌはどうだと言い、更に話を聞いてみればローザンヌで行方不明になった女性の調査だった。
かくしてホームズがアブラハム老人の生命の危機に注意していなければならないので、ワトスン一人でスイスに向かうことになった。

 2日後ローザンヌで行方不明になったカーファクス姫の形跡をたどるワトスンは、怪しい大男の存在を知った。
彼に正面から挑み話を聞き出そうとするワトスンだが、首を絞められて死にそうな目に。
危ういところを助けてくれたフランス人労働者は実はホームズの変装だった。
 大男フィリップ・グリーンもカーファクス姫を捜していたのだった。
ホームズは彼女と同行していた男の耳の形から、彼を有名な詐欺師だと見破っていた・・・。

 その後有名な大きすぎる棺桶の話になってゆくのだが、どうにも散漫でまとまりの無い話である。
 ところで「高名な依頼人」では大好きだと書かれていたトルコ風呂を、今作ではホームズはだるくなる上に高価だと言い、イギリス式の方がいいと言っている。
事件の発生順ははっきりしないが、作品の発表順ではこちらの方が先なので、その後ワトスンに勧められてホームズもトルコ風呂が大好きになったのだろうか。
 1911年12月 ストランド。

犯人は二人

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 日時不明。
 恐喝王チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンとホームズの対決。
最初ミルヴァートンを部屋に呼びつけて交渉するホームズだが、話にならなかった。
スキャンダルの期日が迫り、ホームズは正義のために犯罪を犯す決意をする。
話を聞いたワトスンももちろんついていった。
 すでにミルヴァートンは寝ているはずの時間だったが、彼には約束があり、まだ起きていた。
面会の相手は前に彼に破滅させられた高貴な夫人で、復讐の機会を狙っていたのだった。
ミルヴァートンが撃ち殺されたドサクサに紛れて書類を燃やし、逃走する二人だが、ワトスンは背格好を見られてしまう。

 翌日やってきたレストレードが二人組の犯人の話をして、ホームズがそれはちょうどワトスンのような男だねと言い出すのが愉快。
 1904年4月ストランド誌発表。

六つのナポレオン

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 日時不明。
 レストレードからナポレオンの石膏像ばかり壊して回っている者がいると聞いたホームズは、それはワトスンの領域の話だと答えたが、わざわざ人の家に侵入してまで壊しているのを聞くと身を乗り出した。
 現場の調査をしてみると、犯人は持ち出したナポレオン像を家の外しばらく行ったところで壊していた。そこは街灯がある場所だった。
 また壊されたナポレオン像の出所を探ると、ある工房で六つ作られたもので、残り2つがまだ壊されていないことが分かり、更にその工房で盗人が捕まえられたことがあるのを知ることが出来た。
 ホームズは目を光らせ、残ったナポレオン像で近くにある方で待ち伏せを開始した・・・。

 実に有名な話で、ホームズシリーズ最高傑作と言う人もいる。
日本ではジュブナイルで最も多く読まれている作品の一つでもある。
 化夢宇留仁も実に面白かったが、トリックとしては大きな問題点があると思う。
要するに「青いガーネット」の鵞鳥をナポレオン像に移したトリックなのだが、ホームズが仕事に掛かった時点でナポレオン像は4つまで破壊されている。
最初の3つは4つ目が破壊されたことで、幸運にもハズレだったと判断できるが、 4つ目がハズレだったとする根拠はなにもない。
ホームズの待ち伏せは、1/3以上の確率で空振りに終わる筈だったのだ。
元より可能性が高いと思われることを断言しがちなホームズだが、ちょっと今回は運がよすぎたように思う。
 どうでもいいけど真珠は元の持ち主に返さなくていいのか(汗)?
 1904年5月ストランド誌。

覆面の下宿人

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1896年の年末。
 払いはいいがまったく部屋から出ず、一度だけ見た顔は恐ろしく崩れていた下宿人を調べてほしいと頼んできたのは家主のおばさん。
この時点で特に事件が起こっているわけでもない。
結局そのまま事件が起こるわけでもなく、下宿人の話を聞き、彼女の自殺を思いとどまらせて終わる。
特に盛り上がるわけではないが、こういう話がたまにあると幅が出ていいと思う。
 1927年2月ストランド。

スリー・クォーターの失踪

新潮文庫/シャーロック・ホームズの叡智/延原謙訳
 1896〜7年2月
 明日に大事な試合を控えているというのに、スリー・クォーターが失踪したと言って大学生が泣きついてくる。
有能なスリー・クォーターのゴドフリー・ストーントンは、昨夜電報を受け取った直後に行方不明になっていた。
ホームズは失踪した男のケチな叔父に会い、更にゴドフリーが行方をくらます直前に出した電報の宛先を掴み、真相に近づいてゆく。
しかし最後にたどり着いた頑固な医学者であるレスリー・アームストロングは、ホームズをして「モリアティ教授なきあとのギャップをうめるのに、あれだけ適切な人物は見あたらない」と言わしめるほどのくせ者だった・・・。

 自転車での尾行に気付かれ、最後にホームズがとった作戦は・・・現代では実に当たり前の方法だった。
当時はまだ警察に採用されていなかったのか?
 事件の発生時は、この作品がストランド誌に発表されたのが1904年8月で、本文冒頭で7〜8年前の2月と書かれていることより。

悪魔の足

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 1897年春。
 日頃の過労が祟り、とうとう名医ハリー・エーガー博士に絶対に休養が必要だと言われてしまったホームズは、ワトスンと共にコーンウォール半島のポルデュ湾近くの小さな家に落ち着いた。
 3月16日火曜日。
ラウンドヘイ牧師とディレッタントのモーティマー・トリゲニス氏が息せき切ってやって来た。
彼らの持ってきた事件は恐るべきものだった。
一人の女性が亡くなり、二人の男性が発狂しているのが発見されたのだ。
 調査を進めるホームズだが、やがてトリゲニス氏も殺されてしまい・・・。

 オチはすぐに想像がつく。事件が奇怪であればあるほど内容は単純というのを地で行ってるな。
それにしてもホームズったら、いつも化学実験はしているはずなのに、安全管理がいい加減すぎである(笑)。
1910年12月 ストランド。

第二の汚点

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1897年7月の火曜日の朝。
 ベーカー街の部屋に、元総理大臣とヨーロッパ省大臣が訪ねてきた。
ヨーロッパ大臣の自宅から、重要な手紙が盗まれてしまったのだ。その手紙が公表されれば、イギリスと某国の間に紛争が起こるのは確実で、なんとかその前に取り戻したいのだと言う。
 ホームズはロンドンで活動しているスパイを洗い出すが、その矢先にマークしていたスパイであるエドゥアルド・ルーカスが殺されてしまう。
現場に行くと、変な女が見物していったという話を聞く。
更にホームズは絨毯の裏に秘密の隠し場所を見つけるが、そこはすでに空だった・・・。

 直前に怪しいスパイだと話していた男が殺されたという新聞記事を見たワトスンに、ホームズがこの事件をどう思う?と聞くと「驚くべき偶然だね。」
なんぼなんでも馬鹿すぎるのでは(汗)。
 日付の年と月は「海軍条約文書事件」の冒頭の分によるが、「黄色い顔」ではホームズが失敗した事件として言及されている。
他にも言及があって、どれも食い違うらしく、「第二の汚点」事件は3回あったという者もいるようだ(汗)。
 1904年12月ストランド。

アベ農園

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1897年冬。
 ひどく寒い早朝、ワトスンはホームズに揺り起こされて目を覚ます。
2人は10分の内にはチャリング・クロス駅に向かっていた。
ホームズはホプキンスから、ケント州マーサームにあるアベ農園でのサー・ユーステス殺害事件に協力要請を受けていたのだ。
 現場に着くと、意識不明だったユーステス夫人の意識が戻っており、犯人は3人組の強盗だと証言していた。
夫人の証言と、それを裏付ける現場の状況から一度は事件に興味を失ったかに見えたホームズだったが、現場に残された3つのワイングラスの謎がどうしても腑に落ちず、再調査を開始する。

 ワインの膜に関するトリックは、いいワインを飲み慣れない日本人である化夢宇留仁にはピンとこなかった。
 1904年9月ストランド。

踊る人形

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1898年。
  子供のイタズラとしか思えない人形の落書きを見てから、妻の様子がおかしくなったという依頼人。
落書きの写しを受け取ったホームズは、新たな落書きが見つかったら至急写しを送るように言い、研究を開始する。
どうやら落書きは暗号らしい・・・。
何通目かの暗号を受け取った後、依頼主は射殺され、夫人も自殺を図る。
召使い達は銃声は2発しか聞こえなかったと証言するが、ホームズは最初の銃声は2丁の銃が同時に発射されたものだと推測し、第3者の存在を明らかにし、犯人の目処がついたところでホームズ自ら暗号の手紙を出すのだった・・・。

 「空家の冒険」で「帰還」は名作ばかりと書いたが、「踊る人形」はもう一つかもしれない。
ストーリーや最後にホームズが仕掛けるトリックは面白いのだが、メインの踊る人形のミステリーがあまりにも単純すぎるのだ。
普通解読は無理でも暗号だということくらいは気付くと思う。
 日付は本文中で、50年祭(1897年)が去年のことだと言っているため。

プライオリ学校

新潮文庫/シャーロック・ホームズの帰還/延原謙訳
 1900年代5月。
 立派な紳士に見える依頼人がやってきたが、部屋に入ってきた途端につまずいて倒れ、頭を打って気を失ってしまった。
彼はマルクトン近くにあるプライオリ学校の校長で、預かっていた高名な貴族であるホールダーネス侯爵の息子が行方不明になってしまい、心労のあまり弱り切っていたのだ。
 少年は5月13日月曜日の夜にちゃんと服を着替えて姿を消していた。
そしてもう一人、ドイツ人のハイデッガー先生の姿も無く、こちらは寝間着のまま出ていったきりのようだった。また彼の自転車も無くなっていた。
 ホームズは少年の家族関係と現場を調べ、ハイデッガーが殴られて死んでいるのを発見。更に推理を進めてゆく・・・。

 ドイツ人の先生が可哀想である。
自転車での逃走の追跡や、牛の足跡のトリックなど、見所の多い作品。
 日付は少年の父親が1900年以降ハラムシャー州副知事を務めているという記述による。

高名な依頼人

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1902年9月3日。
 ホームズとワトスンが大好きなトルコ風呂で横になっているところで、ワトスンが近頃面白い事件は無いかと訪ねると、ホームズはそばにかかっている上着のポケットから封書を取りだしてワトスンに渡した。
それはサー・ジェームズ・デーマリという男からの依頼状だった。
デーマリは社交界でよく名の通ったスキャンダルを防止するのに通じた男らしい。
 この頃ワトスンはクイーン・アン街に住んでいた。
ベーカー街に行って待っていると、4時半にデーマリがやってきた。
依頼内容は、オーストリアの殺人鬼と呼ばれるグルーナー男爵に、ド・メルヴィル将軍の娘であるヴァイオレット嬢がたらし込まれてしまったので、その結婚を防いでほしいというものだった。
 ホームズは1900年代のはじめから助手として使っている元極悪人のシンウェル・ジョンソンに情報を集めさせ、その間に男爵本人と会ってみた。
男爵は余裕綽々で、ホームズをカードがないのにゲームを挑んでいるようなものだと嘲笑する。
ジョンソンは前に男爵と付き合っていたが捨てられたという女性を見つけだしてきた。
彼女の話から、男爵はそれまでに付き合った女性の記録をコレクションした帳面を持っていることが分かり、それさえ手に入れればヴァイオレット嬢も男爵の正体に気付きそうだった。
その前にヴァイオレット嬢に会って説得もしてみるが、やはり無駄に終わった。
 その後ホームズが暴漢二人に襲われて重傷を負ってしまう。男爵の指図に違いない。
心配するワトスンに、ホームズは中国陶器の勉強をするように言う。
中国陶器の収拾家でもある男爵に、ワトスンが近づいて情報収集するためだった。
ワトスンは必至に勉強し、男爵邸を訪問するが、すぐに正体がばれてしまう。
どうしようかと言うところに包帯を巻いたままの姿のホームズが現れ、それを見た男爵が庭に躍り出ようとしたところで、女の腕が伸び、彼の顔に硫酸をぶちまけた。
転げ回る男爵を後目に、ホームズとワトスンは彼の女性収集記録を持ち出したのだった・・・。
 男爵の顔に酸をかけたのはジョンソンの連れてきた女で、ホームズは彼女を安全なところにかくまうように指示していたのだが、勝手に屋敷に忍び込んでいたのだった。
ヴァイオレット嬢は収集記録を見て男爵の正体に気付き、結婚は取りやめになった。
依頼主のデーマリは感謝して馬車で帰っていったが、ワトスンはその馬車に描かれている紋章を見て、依頼主が予想以上の高貴な人物だったことを知るのだった・・・。

 長々と書いたが、実はあまりよくできた話ではない。
最後のワトスンの努力は全然報われないし、女性の飛び入りが無かったら事件の解決も怪しいところである。
「犯人は二人」が同じような展開だが、あっちの方が遙かに出来がよい。
グラナダTV版ではワトスンの努力が正当に評価されている。
 1925年2〜3月 ストランド。

三人ガリデブ

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1902年末。
 ガリデブという名前の人物を3人探せば大金が手にはいるという話しを、ガリデブと言う男がガリデブという収集家の老人に持ちかけた。
つまりもう一人ガリデブが見つかれば大儲けできるのだ。
やがて3人目のガリデブが新聞広告で見つかり、収集家のガリデブは彼に会いにいくことに・・・。

 赤髪連盟と同じような話。
ワトスンが負傷したときのホームズの反応が見物。

白面の兵士

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1903年1月。
 ワトスンが出ていってしまったので、ひとりぼっちですねているホームズ。
その為本作はワトスンが事件に関わっておらず、ホームズ自身の筆によるものである。
 依頼人は元兵士のジェームズ・M・ドッド氏。
彼と仲がよかった戦友と連絡が取れなくなり、心配して友人の実家にも行ってみたのだが、戦友は旅行に行っていると言われた。しかしその夜真っ白な顔の戦友が窓の外にいるのを目撃したというのだ。
 ホームズは現地に調査に赴き、いくつかの証拠を発見し、その友人がある病気にかかっていると判断する。

 ストーリーはこれと言って変わったところもないが、ホームズ自身の内心が語られているのは本作と「ライオンのたてがみ」しかないので実に興味深い。
ワトスンに習ってオチを言うのを引き延ばすなど、ホームズなりに努力しているところも可愛い(笑)。

マザリンの宝石

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 日時不明。夏の夕方7時。
 ワトスンが久しぶりにベーカー街を訪ねると、出迎えたのはビリー少年だった。彼はワトスンが出ていった後のホームズの助手なのだ。
ホームズは寝ているらしかった。事件の調査で生活が不規則になっているのだ。
その事件というのは、10万ポンドの値打ちのあるマザリンの王冠ダイヤが盗まれたというもので、総理大臣と内務大臣がやってきて調査を依頼していったのだという。
ただしその後カントルミヤ卿がやってきて、どうせホームズに宝石を取り戻すのは無理だし、その依頼自体にも反対していると言ったらしかった。
 いつもの部屋に入ると、見慣れないカーテンがかかっており、その奥の窓際にはホームズそっくりの人形が置かれていた。「空家の冒険」の時と同じように、またホームズは狙われているのだ。
 ホームズが起きてきて、これから捕り物があるので警官を呼んでくるようにワトスンに頼む。
やってきたシルヴィアス伯爵とサム・マートンは、ホームズが宝石を盗んだ犯人だとにらみ、その証拠も集まっている極悪人だった。
ホームズはダイヤを出せば今回は見逃してやると取引を持ちかけるが、2人は応じない。
しかし相談したいと言うので、ホームズは席を外してバイオリンを弾き始める。
伯爵はダイヤを持ち歩いており、マートンにせがまれてそれを出して見せた。
するとホームズの人形だと思っていた物が、突然動き出してダイヤを取り上げた。バイオリンの演奏を発明されたばかりの蓄音機に吹き込んで、隙を見てすり替わっていたのだ。
 その後ホームズは再びやってきて諦めるように言い出したカントルミヤ卿のコートのポケットにダイヤを滑り込ませて驚かし、ささやかな復讐を遂げた。

 トリックも面白いが、それよりキャラクター小説という感が強い。
なによりの特徴は、ワトスンの筆によるものなのに、ワトスンのいないところの描写があることだ。
多分あとでホームズから聞いたということなのだろうが、多分これは本作が唯一だと思う。

三破風舘

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 日時不明。
 ある朝ワトスンがベーカー街を訪ねると、ホームズは機嫌がよさそうだった。なんらかの事件を抱えているのだ。
ホームズがワトスンにその事件のことを話そうとしたところ、いきなり気の狂った雄牛のような男、黒人の巨漢であるスティーブ・ディキシーが飛び込んできた。
彼は今ホームズが抱えている事件から手をひくように脅しに来たのだが、ホームズが彼の犯罪の証拠を掴んでいることを匂わせると縮こまってしまった。
ディキシーを追い払ってから、ホームズはハーロウ・ウィールドの三破風館のメアリー・メーバリーからの依頼の手紙を見せ、二人は三破風館に向かった。
 メーバリーは破格の値段で家を買い取ってくれるという話があったが、それは全ての家財から手荷物品まで含まれたものだと分かったので断ったと言いったが、そこまで話したところでホームズが立ち聞きしていた女中を捕まえて中断された。
女中はこの陰謀の糸を引く、バーニィ・ストックデールのスパイだったのだ。またディキシーも彼の部下だった。
ホームズはこの家に実は非常に高価な物が隠されているのだと推理し、最近亡くなった息子のダグラスの荷物が怪しいと見たので、それを2階に運んで中身を確認し、今日は弁護士に泊まってもらって休むように忠告した。
しかし彼女は忠告を守らず、案の定息子の荷物を盗まれてしまう。
実はその中にはダグラスの書いた小説があり、それはある女に騙された男の物語だった・・・。

 結局ホームズは犯人を検挙する代わりに、メーバリーに充分なお金がわたるように手配して終局となる。
被害者の心情を思えばその方が好ましい結果だと思った。
しかしもう一つ盛り上がりに欠ける話である。
 1926年10月ストランド。

這う男

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1903年9月初旬の日曜日の夕方。
 ワトスンはホームズからの電報を受け取る。
「都合ヨケレバスグコイ ワルクテモコイ S.H.」(笑)。
 ホームズは最近様子がおかしい老教授の調査を行っていた。
教授は夜になると四つ足で走り回ったり、3階の窓から顔を覗かせたりしているらしい・・・(笑)。

 ホームズと言うよりもクトゥルフ神話ものの一遍とした方が収まりがいい。
ドイルのネタの尽き具合もそろそろやばいレベルに(笑)。
 1923年3月ストランド。

ソア橋

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 発生年不明。10月のはじめの風の強い日。
 金山王でアメリカの上院議員でもあるニール・ギブスンの夫人が自宅の庭のソア橋で射殺された。
犯行に使われたと思われる拳銃が家庭教師であるダンバー嬢の洋服箪笥から出てきたので、彼女が犯人と決めつけられたが、そうは思われないので調査してほしいという依頼があった。
依頼主はギブスン氏である。
 ホームズは関係者の証言と、現場の調査で実は他殺ではないという結論にたどり着くのだった・・・。

 トリックが有名な作品。
なんでもこの作品を書いたのはドイルがネタに詰まっていた頃で、実は編集者が考えたトリックだという話もあるが(笑)。
 有名なワトスンの手記の入ったブリキ缶が登場する。

サセックスの吸血鬼

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 発生年不明。
 11月19日にオールド・ジュリィで書かれた手紙が届く。
それにはサセックスで吸血鬼のような事件が起こったので相談したいとあり、差出人はワトスンの学生時代のラグビーのライバルだったロバート・ファーガスンだった。
ファーガスンは妻に先立たれ、2度目の結婚で最近子供が出来た。また前の妻の間にも息子が一人あったが、事故のため身体が不自由だった。
ある日ペルー人である現在の妻が、自分の子供である赤ん坊の首筋に噛みついて血を吸っているところが目撃されたという・・・。

 飼い犬の様子や様々な要素を一つにまとめ上げて結論にたどり着く、ホームズらしい活躍が楽しめる一遍。
やっぱホームズは面白いわ(笑)。
 

ショスコム荘

新潮文庫/シャーロック・ホームズの叡智/延原謙訳
 依頼人は有名な騎手の馬の調教師だった。
彼は自分の主人が発狂したのではないかと心配していた。
調査に乗り出したホームズは、地下室で人骨が焼かれているのと騎手の妹が公に姿を見せなくなったのを鑑みて不吉な予想をするが・・・。

 意外に気持ちよく終わる。
 時期は不明。
ストランド誌への発表は1927年4月。

隠居絵具屋

新潮文庫/シャーロック・ホームズの叡智/延原謙訳
 ワトソンが買えてきたとき、入れ違いに出ていった依頼人は元絵具屋で、それなりの財産と20も若い奥さんをもった幸せ者だったはずだが、奥さんには駆け落ちされ、しかも財産まで盗まれてしまって途方に暮れていたのだった。
ホームズが別件(「2人のコプト人の古老」事件)件で忙しいと言うことで、ワトスンが単身現場を検証することに・・・。

 途中でオチは想像がつき、もう一つ盛り上がりに欠けるか。
ただしワトスン一人の調査というのは面白い。

ライオンのたてがみ

新潮文庫/シャーロック・ホームズの事件簿/延原謙訳
 1907年7月末。
 探偵業を引退したホームズは、サセックスの英仏海峡を見下ろす白亜の高台に家をかまえ、養蜂を営んでいた。
ひどい嵐の翌日、気持ちよく晴れたので岩場を散歩していると、恐るべき殺人事件に遭遇することに。
 被害者は水たまりの近くで、身体中にムチで打たれたような跡をつけられ、激痛のあまり元々弱かった心臓が止まってしまったらしかった。
被害者の最後の言葉は「ライオンのたてがみ」
調査を頼まれたホームズは、関係者の聞き込みをするのだが、その内第2の被害者が・・・。

 ホームズの一人称で書かれている。
冒頭ではホームズがワトスンのいないことの愚痴を書き連ねており、実に面白く、ちょっと切ない。
 事件は実に単純で、普通すぐに思いつきそうなことである。
イギリス人も島国のくせに海に生息する生物の知識が乏しいのか???
 1926年12月ストランド。

最後の挨拶 シャーロック・ホームズの結詞

新潮文庫/シャーロック・ホームズ最後の挨拶/延原謙訳
 1914年8月2日夜9時。
 ドイツのスパイであるフォン・ボルクは、白亜の断崖のすその波打ち際で4年前から家として使っているところで、ドイツ大使の秘書であるフォン・ヘルリンク男爵と会っていた。
お互いの成果を誉め合い、すぐに始まる大戦の勝利の前祝いと言った感じである。
 男爵が帰った後、ボルクはもう一人の客人を待った。
それは彼が情報の入手源として使っているアルタモントという男だった。
これから海軍の暗号書を持ってくることになっており、それを手に入れ次第彼もイギリスを離れる計画だった。
 やがてアルタモントがやってきた。
彼の乗ってきた車にはがっしりした中年の運転手が残った。
アルタモントは仲間が捕まっていることを告げ、自分も高飛びしたいので余計に金をもらわないと暗号書は渡せないと言い出す。
渋々小切手を切るボルクだが、こちらが信用を示すのだからそっちも示せと言い、先に暗号書を渡すように言った。
アルタモントは抱えていた包みを渡した。
ボルクが包みを開くと・・・。

 なかなか雰囲気があって楽しめる。
ただしホームズシリーズは節目の作品はどれも推理劇ではなくキャラクター小説っぽくなるが、本作も例外ではない。
 ところでホームズの最後の挨拶は3人称で書かれているシリーズ唯一の作品である。
誰が書いたのだろう?


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