剣と魔法の物語傑作選
不死鳥の剣
中村融編
サクノスを除いては破るあたわざる堅砦
ロード・ダンセイニ著/中村融訳
歴史よりも古き森のオーラスリオンの村は平和だったが、ある一時期村人たちが悪夢に悩まされる日々が続いたことがあった。
魔術師は試行錯誤の末に、その夢がガズナクから発せられたものだと突き止める。
ガズナグは230年に1度彗星に乗ってやってきて砦を築き、人の心を糧とするために夢を送り出す。
ガズナグを殺すにはサクノスの剣を用いるのが唯一の方法だが、サクノスの剣はまだ地上には無く、北方の沼地にいるサラガヴヴェルグという怪物の背骨から作り出すしかないが、その怪物は全身が金属製で一切の攻撃を受け付けないという・・・。
ザ・叙事詩という感じ。
サクノスの砦での描写がやたらに凝っているが、凝りすぎていて理解が追いつかない(汗)
不死鳥の剣
ロバート・E・ハワード著/中村融訳
裏通りの建物から夜闇の中に4人の仮面の男を送り出したスティギア人は、奥の部屋に戻り、寝椅子にくつろぐアスカランテという尊大な男と話をする。
アスカランテは仮面の男たちに雇われてこの国の王を暗殺する計画を進めていた。
この国の名はキンメリアという・・・。
冒頭によくある架空の歴史書みたいなのの抜粋文を読み終えた瞬間に頭の中で鳴り響く「コナン・ザ・グレート」のオープニング曲(笑)
なにしろ王様が王様なので(笑)展開は予想されたが、思ったよりプロットが凝っていて更に楽しませてもらった。
コナン・シリーズの第1作がコナンが王様のときのエピソードだとは知らなかった。
サファイアの女神
ニッツィン・ダイアリス著/安野玲訳
この世の悩みから解放されるために4次元世界へ逃げ出そうと一心不乱に念じた男は、見事異世界に転生し、オクトランの王カランとなる。
しかし実はそれこそが正しい姿であり、人間社会にいた男の方が仮の姿だったのだ。
親衛隊長のザルフは魔道士ドジュル・グルムによって国は滅茶苦茶にされており、カランの王妃も囚われたと言うが、カランにはその記憶がない。
そこで彼の記憶を蘇らせることができるかもしれない魔術師アグノル・ハリトのところに行くことになるが・・・
異世界へ転送する冒頭部分の書き方のおざなり感が半端ない(笑)
しかし忠臣コトが出てきてからはなかなか盛り上がり、更に非常に強力な能力を持った魔術師やら荒神やら亡霊の女王やらがバンバン出てきて世界の奥行きを作るとともに賑やかで楽しい。
ちうか最終的には主人公カランを三蔵法師にした西遊記みたいな雰囲気に。
一風変わっていて面白い。
ヘルズガルド城
C・L・ムーア著/安野玲訳
ジョイリーのジレルは、湿地帯に建つヘルズガルド城の霊宝をとってくるように頼むガルロットのギイに逆らえなかった。というのもギイは彼女の臣下20人をガルロット城に囚えているのだ。
ヘルズガルド城は200年前に城主が八つ裂きにされて以来、数え切れないほどの盗賊が霊宝を求めて探索に向かったが、帰ってきた者はおらず、しかも城は逢魔が時にしか現れないという。
ところが行ってみるとそこには奇妙な人々が住んでおり・・・。
ものすごくもったいぶった展開で、城に入るまでの葛藤やらなんやらの長さには少々クラクラさせられた。
入ってからの展開もこれまた雰囲気を盛り上げるための描写がやたらに多く、物語の展開が遅い(汗)
まあまあ意外な展開で悪くはなかったが、少し疲れた。
暗黒の砦
ヘンリー・カットナー著/安野玲訳
亡国の王子レイノルと忠臣エブリクは、先行していた仲間が待ち伏せにあって皆殺しにされ、少女デルフィアがさらわれたことを知った。
追跡を開始し、深い闇夜に月が出るまで待機していたところに話しかけてきたのは奇怪な巨大な老人ギアールだった。
老人はデルフィアを救い出すのに協力すると申し出るが・・・。
なにかと星座が絡むのがちょっと微妙な感じだが、プロットがなかなか凝っていて悪くなかった。
淒涼の岸
フリッツ・ライバー著/浅倉久志訳
酒場でギャンブルに講じていたファファードとグレイ・マウザーは、青白い顔の黒衣の男に話しかけられ、やがて催眠術をかけられたように淒涼の岸へ向かう。
苦しい船旅の末にたどり着いた淒涼の岸にあったものは・・・
本シリーズを初めて読んだ化夢宇留仁としては、このチョイスには大いに不満がある。
2人の軽妙なやり取りが魅力のはずなのに、本作ではほとんどの時間2人が変な術にかかったままで会話も何も無いのだ(汗)
なんでこの話を選んだのか、選者に問い詰めたい。
天界の眼
ジャック・ヴァンス著/中村融訳
記憶の彼方より存在する街アゼノメイで偽造した護符を販売していたキューゲルだったがさっぱり売れず、繁盛している商売敵のフィアノスサーの店に行ってみる。
フィアノスサーはキューゲルが苦労しているのを知っており、今ここに来ようとしている笑う魔術師イウカウヌは3時間この店にいるので、その間にイウカウヌの館で魔術師が収集している魔法の品々を盗んでくれば高く買うとほのめかす。
キューゲルはイウカウヌの館に忍び込むが帰ってきたイウカウヌに見つかってしまい、強制的に妖魔ウンダ・フラダの対の尖頭を探し出すことに。
尖頭があるとみなされる地域に運ばれたキューゲルは、そこに目に奇妙なものをつけた汚らしい人々を見つける。
前半が少々かったるいが、尖頭をつけた人々の街に入ってから「異郷作家」の面目躍如たる展開になって面白かった。
最後の終わり方はドリフみたいだが(笑)、尖頭のルールに合致しない美女も混じっているがその謎は放ったらかしで終わったりするところも奥行きがあってなんだかよい。
しかしこの作品は「剣と魔法」の「剣」の方は全然合致しないと思うぞ(笑)
翡翠男の眼
マイクル・ムアコック著/中村融訳
「エルリック・サーガ2 この世の彼方の海」の「過去への旅」の元になった話で、大筋は同じなのだがいくつかの点で変化が見られる。
一番大きいのは本作では同行者がムーングラムだったのが「過去への旅」ではスミオーガンになっているところである。
また時間的な変化もあり、本作はメルニボネ壊滅後の話になっているが、「過去への旅」ではその前の出来事である。
また本作では金持ちの街で路頭に迷っていたエルリックとムーングラムがアヴァン公爵に拾われるという展開があるが、「過去への旅」では公爵はエルリックが海を漂っているところを見つけたということになっている。
それにしてもただでさえ前後関係がややこしいのに、著者自らこんなことをされると非常に困る(笑)
ちうわけで傑作選の名に恥じない粒選りのアンソロジーだった。
中にはちょっとテーマとズレているのではないかと思うのも無いではなかったが。
で、結局どれが一番面白かったかというと、やっぱりコナンなのが流石である。
20250518(mixi日記より)
20250518
黒衣の花嫁
コーネル・ウールリッチ著/稲葉明雄訳
家を出ていくことに決めたジュリーは、シカゴまでの切符を買ったが、降りたのはすぐ近くの駅だった。
彼女は家具付きのアパートを借りると、名前が書かれた5枚の紙を見つめていた。
結婚を控えたブリスの留守に、見知らぬ女がやってきて部屋に入ろうとしていたと門衛のチャーリーに聞いたが、ブリスにはその女に心当たりがなかった。
ブリスの人生は婚約披露パーティーの夜に終わった。
次はミッチェルの番だった。
びっくりするくらいミステリーじゃないのに驚いた。これはほぼ純粋なサスペンス小説である。
「幻の女」の映画版がサスペンスになっていたが、どうも著者もそっちの方が向いているのかもしれない。
というのも本作のラスト近くのミステリー的な展開は意外なほど盛り上がらなかったのだ。
しかし。サスペンス作品としての本書の面白さは強烈で、まさに死神としか言いようがない冷酷な殺し屋と何も知らない犠牲者とのやりとりには一々手に汗握らされた。
まあ要するにキル・ビルみたいな話なわけだが(笑)、ほんとにラスト近くまでの濃密なサスペンスは見事。
残念なのはやはりミステリーとしてのカラクリ的な部分だが、著者自身そのへんはあまり重視していなかったのだと思う。
なにしろ唐突すぎるし(笑)
しかし結果としてはとてつもなく面白く読めた。
20250528(mixi日記より)
20250529