PROLOGUE CREW LIDIA PATROL COMBAT EPIROGUE
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PROLOGUE
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■■■ 1 ■■■
0630-113-1117 自由貿易船ネットウルフ/エジプト星系/グリッスン星域 グリッスン星系からの超光速航行を終えたA-310型自由貿易船ネットウルフ号は,ゆっくりとした加速でエジプト星系の主星である Egypt I Epsilonに向かっていた.ネットウルフ号は,主星まであと約10時間の位置を通常ドライブで航行していた. 船内時間0630時,シカー=クルイエルは,朝食を採るためにネットウルフ号の共用室を訪れた.今年26才になる彼女は血統から言えば帝国貴族の端くれだ.ただし,8年前に両親と喧嘩して家を飛び出してからは,一度も故郷に足を踏み入れていない.
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Poser5
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1週間前,両親が雇った腕のいい探偵が,グリッスンを飛び立つ寸前の彼女を見つけ出した.彼女は仕方なく仲間達と別れて2日遅れでエジプトに向かうことにした.仲間達とはエジプトで間違いなく合流できるはずだった.臨時出費の特等チケット代は彼女の母が出した.浮いた時間で母とは1日だけ話をしたが,シカー=クルイエルは,自分で選んだ「旅」を捨てるつもりはなかった.
彼女の母親は,美しく育った娘を手離なしたくないと,宇宙港のロビーで酷く泣いたが,約束に遅れない最後の便,自由貿易船ネットウルフ号に乗らないわけにはいかなかった.乗らなければ彼女は旅の仲間と離ればなれとなってしまう.仲間は彼女を待ってくれるほど暇ではなかった. |
自由貿易船の今朝の共用室の壁面立体映像は,とあるリゾートホテルのテラスから眺める海辺の朝焼けだった.シカー=クルイエルは,セルフサービスの朝食を好きなように盛りつけると,こぼさないように,いつもの窓際の席に向かって歩を進めていった.と,そこには見慣れない船客の姿があった.彼女はこれまで毎朝一番に共用室を訪れていたが,今日に限って先客がいるので少し驚いた.男は影のある雰囲気で,なかなかのハンサムだった.ただし彼女の好みの顔ではないが.年は30代前半といったところだろうか. 「おはようございます.はじめまして,みかけませんでしたね.」
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DoGA-L3 & Terragen |
彼女が本格的に話を始める前に,どこからともなく表れた船長が話に割り込んできた. 「やあどうも,今日もいい天気ですね.もっとも天気を決めたのは私ですが.」 船長は笑いながら返事を待った.これは船長お得意の毎朝のジョークの一つで,彼女を含めて船客全員が既にこの洗練を浴びていた.しかしその男だけは少し奇妙な対応を示した. 「砂漠にも蝶は飛びますかねえ.」 壁面立体画像の風景は砂漠とは明らかに似つかわしくなかった.この男はファーストドラックぼけなのかもしれない,と彼女は考えた. 船長は改まった口調で答えた. 「以前に飛ぶのを見たことがありますよ.どうも,本船の船長です.ずーとお眠りになっているので,少し焦りましたよ.よろしければ船橋におこしになりませんか,宇宙を見るのも悪くないですよ.ああ,お嬢さんちょっと失礼しますよ.彼を借りますよ」 話の腰を折ったばかりか,相手を連れ去ってしまうとは.船長のあまりの非礼に,彼女は強い憤りを覚えた.客の話に割り込む船員の話など,これまで聞いたことがなかった.
■■■ 2 ■■■ 1630-113-1117 自由貿易船ネットウルフ/エジプト星系/グリッスン星域 その日の晩餐,つまり船で採る最後の晩餐に,船長は彼女を自分のテーブルに招待した.船長が直々に彼女の船室に現れて非礼を謝罪したのだから機嫌を直さないわけにはいかなかった.テーブルでは朝の男もいっしょだった. 食事を終え,お茶が配られ始められるとシカー=クルイエルは,尋ねた.
船に乗っていたここ1週間,彼女は晩餐の度に様々な船客の男達と会話を楽しんできた.ちやほやされて少し調子に乗っていたのかもしれない,それだけにテープルの上で相手にされなかったということに,強い屈辱感を覚えた. 自由貿易船は惑星エジプトにゆっくりと入港した.
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